三馬鹿

三馬鹿日記

三馬鹿 アイスは溶けない

 

アイスは溶けない

「なぁお前ら…」
「なんだよ堀…」
「どしたよ堀くん…」
「この暑さどうにかなんねえの?!」
どうにもならん、そう諦めたような顔で煙草に火を点けるのは一宮あおい、通用いちくん。
いやー無理すわ、と下敷きで少しでも涼しさを得ようとしているのが佐伯澪、通称れいくん。
こんなんじゃアスファルトで卵焼きできちまうよ…とユーチュ●バーの様なことを言い出すのは堀奏多、通称ほりくん。
三人がいるのは数か月前、運命の様な出会いを果たした校舎裏の石段だ。
その日と違うのはこの茹だる様な暑さ、そう、今は七月が始まったばかりの真夏日なのだ。
いつもはなんとか動いていたエアコンで暑さを凌いでいた部室は、今日は抜き打ち部室チェックが入ってしまいぶつくさと文句を言いながら外に出てきたわけだ。
抜き打ちチェックはいちくんが早くに情報を入手し(出所は内緒)バレたら没収されそうなものは早々に隠してはあるが。
当面はこの暑さを凌げるところ…は諦めて、とりあえず喫煙が出来そうな所を探して思いついたのがここである。
「マージで無理、死ぬ。死ぬけど」
「澪くん、何時もより死にそうな顔三割増しだけど」
「そりゃそうなるわな…」
「いちは何でそんなポーカーフェイスなんだよおかしいだろ」
暑さが嫌いなれいくんはこの暑さに耐えきれんとばかりに唸っている。そりゃあもう、今の時間は午後二時、暑さも増す時間帯だ。
お察しの通り午後の授業の体育をサボって煙草を吸いに来ているわけだが。暑さでそれどころではなさそうだ。唯一涼しげな顔をしている安定のイケメンいちくんを恨めしそうに見ているのはほりくん。そんなほりくんがいいこと思いついた!と、何か閃いたような顔をしているので二人は嫌な予感…と身構える。
「アイスじゃんけんしようぜ!」
「あー予想通り」
「だと思った」
ぐりぐりと短くなった煙草をアスファルトに押し付けるいちくんが溜息を吐く。
れいくんはというとこのクソ暑い中!?負けたら!?買い出し!絶対負ける…とネガティブモードを発動している。
ほりくんは楽しそうに二人の様子を伺っている。ぶっちゃけほりくんの提案が通らなかったことはない。
この暑さはやってられないが、でも勝てたらアイス、しかも奢りだ。誘惑に引かれる二人。そして煙草を消したと思ったら急に立ち上がるいちくん。
「勝てばいいんだろ、勝てば」
「お!?いつになくやる気じゃんいち!」
「うっそだろいちくん裏切る気か…」
「さすがに限界だからな…悪いな、澪…」
「澪くん、勝てばいい、そうだろ?」
「何でそんなかっこよく言うんだよもう…仕方ねぇなぁ…」
そう言いつつやはり乗ってしまうのが二人だ。いちくんが立ち、ほりくんがイケボでそう言うものだから、れいくんも渋々と立ち上がる。
三人、じりじりと照り付ける太陽を真下に、蝉の声をBGMにして輪になった。
こんなにじゃんけん如きで真剣になったことは未だかつてあっただろうか。
ほりくんの準備は良いか?というセリフに二人が頷く。
「じゃーんけん」
「ぽん!」
運命はいかに。
しゃあ!と、最初に声が上がったのは言い出しっぺ、ほりくん。言うだけある。
勝者から石段に戻るシステムなのか、満足げな顔で座って煙草を取り出す。
舌打ちをするいちくんと、フラグじゃんこんなのと絶望するれいくんは負けたらしい。
二分の一、次で決まる戦いに固唾を飲み込む。心なしか蝉の声が小さくなった気がするのは集中しているからだろう。これを他に生かせることはないのだろうか…
「いくぞ、澪」
「いちくん顔怖いけど、ガチすぎん?」
「ガチにもなるだろ」
「何が君をそんなにさせるのか…」
お喋りはここまでだ、そんな目力をいちくんから感じたれいくんは黙ってじゃんけんのポーズをする。掛け声は、煙草を吹かしてるほりくんだ。ウキウキしているのを隠しきれてない。
「いくぞー、はい。じゃーんけーん」
「ぽん」
…一瞬の静寂。ほりくんが二本目の煙草に火を点ける音が聞こえる。
勝ったのは、
「しゃぁあああああ!最高!」
「嘘だろ…」
ほりくんとハイタッチをしているのはなんとれいくん。そう、負けたのはいちくんらしい。誰もがこのイケメンは負けることはないだろうと思っていたが、今回ばかりは神様はれいくんに微笑んだのだ。いちくんもまさか負けるとは思っていなかったらしく、暫くフリーズしてる。爆笑するほりくん。
「最高かよ~何頼もうかなぁ。なぁ?澪くん」
「いや~ここはやっぱりあれじゃないすかねぇ、堀くん」
「あーもーはっきり言えばいいだろ!ダッツな!わかったよ!」
「さっすが物分かりがいい」
「溶ける前に戻ってきてな、いちくん」
マジで覚えてろよ…といつもより百倍落としたトーンでそう言いながら校門に向かういちくん。それをいい笑顔で見送る二人であった。

 

 

 

数分後。何故かチャリに乗って表れたいちくん。何事かと立ち上がる二人。三人は全員徒歩通学なので誰も自転車を持っていないはず。だからこのような醜い戦いが起きたのだが。
まさかパクったのか?というほりくんに、ンなわけねえだろと一蹴する。
もしかして女子生徒をナンパして…?と言うれいくんに対しては、その手も考えたけど…と言い出す、さすがいちくん。
そうじゃなくて、とポケットから何かを取り出し口を開く。
「校門行く手前にチャリ置き場あっただろ。そこに鍵さしっぱのチャリあってさぁ。まぁパクる気はなかったけど、こんなん書いてあったら借りるだろ」
そう言って見せてきたのは何やら小さなメモ用紙。とりあえずアイス食おうぜといういちくんのセリフに石段に座り直した。
ほりくんとれいくんはハ●ゲンダッツを食べながらそのメモを読む。そこに書いてあったのは、
『これを読んだクソガキ在校生よ、このチャリを授けよう。では楽しいスクールライフを! by.卒業生』
「ナニコレ神かよ」
「すげ~神引きじゃん」
「代々受け継がれてる感否めないんだよなこれ…」
古びたキーホルダーが付いた鍵を振り回すいちくんはガリガリ君を食べている。ダッツの出費は痛手だ。
このメモ紙は鍵に括り付けてあったらしい。目敏いいちくんはそれを見逃さなかったのだ。
結構前からあるものだとは思うが、それでも錆びついた所は油が注してあったり、チェーンもそんなに悪くないことから、代々受け継いできた先輩たちの手により綺麗に残してきただろうことが伺える。何故かキーホルダーだけはそのままだが。
それにしてもやはり神は、イケメンいちくんをただ負けにはさせないのだな…と二人は感じていたのだった。
「とりあえずこのチャリは俺らのってことで!」
「回し乗りできんな~最高だろ」
「あともう一つあったら三人でチャリ乗って遠出できんのにな~…」
最初から二人乗りするのを前提でそう言うほりくんに確かに、と二人は頷く。
そんな都合が良いこと早々起きるわけがない…と、思っていたその時だった。
「それが実はな~、あるんだよ」
「あ?」
「は?」
「いや怖いんだけど…」
そう口に出したのは、折角の名案を消し去る様な二人の凄みにビビるれいくんだった。突然自転車を持っている発言をしだしたれいくんに思わず素の声を出してしまった二人だが、純粋にビックリしているのだ。
持ってたら何故言わなかったんだ…?と目が語っているのが伝わる。
れいくんは慌てて言葉を発したが、これもまた悪かった。
「俺って独り暮らしやん?」
「は?」
「いや知らんけど」
「言ってなかったっけ!?」
「知らねえよ~~~~~何なんだよさっきから爆弾発言落としやがって…」
「澪、そういうことは早く言ってくれ」
いや…ごめん…って何で謝ってんだろ俺、となっているれいくん。
二人のツッコミが止まらない。いつもとは真逆である。
早々にアイスを食べ終わったれいくんは煙草を銜え、なんとなく不服そうに語り始めた。
「高校から独り暮らし初めてさぁ。叔父さんが持ってるアパートなんだけど。まぁそれはどうでもいいか…、それでさ、親が入学祝い?でチャリくれたわけ。スーパーとか買い出しの荷物面倒だろうってさ、バイトも始まるだろうしってことで。学校は近かったから使ってないんだけど」
「へぇ」
「なるほど」
「ンで、折角買ってもらったし、ってことでフツーに使ってたんだよ。夜とか楽だし」
独り暮らしを何故始めたのだとか、その一人暮らしの家に行っていいのだろうかとか聞きたいことは山ほどあったが、とりあえずれいくんが話し終えるまでと真面目に聞く二人。
少し風が吹いて涼しさが出てきた。三人で煙草を吸う。れいくんは淀みなく話を続ける。
「それでまぁ入学して一週間くらいかな、煙草切らして夜にコンビニ行ったわけ。チャリで。行きは問題なかったんだけど、帰りがさ」
「ん、」
「普通に走ってただけなんだけどさ…猫ちゃんが、な」
「猫、チャン…?」
ふぅ、と溜息を吐くれいくん。まさかれいくんが猫にちゃん付けをするとは思わず吹き出しそうになる二人。だが今は何となくシリアスな雰囲気になっている為、何とか耐える。
どうした?という顔をしているれいくんに、どうぞ続けてとぷるぷると小刻みに体を動かしながら答える。
「大丈夫かよ。…そんでさ、その猫ちゃんが急に飛び出してきちまって…、俺はできる限りの反射神経を使ってハンドルを方向転換したんだよ」
「…ほう」
「うわ、察した」
「…ん、まぁたぶんいちくんお察しの通り。その方向変えたとこが石垣でさ。勢いよくぶつかった自転車はぐちゃぐちゃで使い物にならなくなったっていうハナシ。でも修理すりゃ使えるし。…あ、猫は無事だったしなぜか俺は無傷で生還した」

「すげえなお前……」

妙に感心するいちくんである。

なるほどね、と腕を組んで頷くほりくん。つまり自転車はあるが使える代物ではなく、修理をしないといけないってことか、つーか未だ修理していないれいくんどれだけケチなの?とは思ったがそれは口に出さず、そんなことよりと、うずうずしているほりくんにいちくんが小突く。
言っちまえ、という合図だ。
「なるほどわかったとりあえずそのチャリの様子も見るために今日の放課後は澪くん家に集合って感じなオッケ?アンダスタン?」
そう早口ノンブレスで言うほりくんにしまったという顔をするれいくん。もう遅えよとニヤニヤするいちくん。
泊まる気満々である。手遅れすぎる件について。
「いや…マジ?」
「マジ」
「マジ」

画してアイスじゃんけん大会は幕を閉じ、次回のお泊りフラグを乱立させたのであった。


 

三馬鹿 ほりいち

 

ほりいち

いち、と鋭い眼光が突き刺さる。普段のおちゃらけた雰囲気はどこへやら。ぐっと両腕で押し退けるがびくともしない。腕っ節で勝てない相手だということはわかっている。抵抗は諦めた。いつもの溜まり場、埃だらけだったソファに布だけ被せてある、綺麗だとは言い難いそこに押し倒されて、友達のはずの堀の手が俺の両腕を軽々しく固定する。なんというか、とても不本意なのだが。……俺は今、友達の堀に組み敷かれているらしい。
こんな事になった理由?そんなのわかるわけない。俺は携帯を弄っていただけだ。じっと見つめてくる堀の視線に気づかなかったわけではない。だがいつもの良くわからない好奇心か何かだろうと気に留めないようにしていた。確かにいつも何かにつけて喋りだしては止まらない堀に違和感を覚えはしたがそういうこともあるだろう。
三人掛けのソファに二人座って寛いでいただけ。最初に口を開いたのは堀。なぁ、と上ずった声が妙に頭に響いた。今は七月も半ば、唯でさえリモコンの効きが悪く暑いというのに、堀は俺に寄り始めた。携帯から目を逸らさずになに、とだけ答える。そういえば今日は澪が来るのが遅いな。放課後だし先生に呼び出しでもされたのかと考える。
その時だった、堀の手が俺の肩をぐいっと押し付けた。低反発のソファに沈む。持っていた携帯が床に転げ落ちた。何、すんだよ、と出てきた声はあまりにも力が入っていなかった。堀は笑っていない。頭が混乱する。
「ふ、ざけんな」
絞りだした声は震えていたかもしれない。今まで女を組み敷いてきた俺がまさか男に、しかもダチにやられるなんて思いもしないだろう。冗談でやっているわけじゃないのはこの空気が物語っていて。だがこのままやられるほど俺のプライドは捨てられちゃいない。けれど堀の加える力はどんどん強くなる。クソ、馬鹿力が。浅く息を漏らす。
空調の効いていない部屋は地獄だった。蝉の声が遠くなるような感覚に陥る。
堀は片腕で俺の両腕を持ち、もう片方の手を俺の頬に添えた。そしてどんどん顔が近づき、気づいたら口と口が触れ合っていた。びくりと体が反応する。俺は緩まった堀の手を逃さず、勢いのまま突き飛ばした。顎に伝う汗を拭い、荒い息を整える。おちつけ、落ち着け。
埃の匂い、と、嗅ぎ慣れた煙草の匂い、そして纏う堀の香水が。いやに鼻腔をくすぐる。
冷静さが取り戻せない。俺らしくもない。チクショウ、何なんだ一体。
その時、床に手をついた堀は俺の方へ視線をやり静かに口を開いた。
「無防備すぎんだよ、」
これまた反応しづらい言葉を言う。堀の、いつもの笑顔が思い出せない、これは本当にあの堀奏多なのか。乱れた髪と制服を直す余裕もない。微妙な距離感を保ちつつ、どういうことだよ、と口に出す。どういうことか、なんて。もう、なにがなんだか。
暑さでどうにかなりそうだ。室温高すぎだろ。エアコン直せよ。つーか何で今日に限って澪がいねえんだよ、クソが。…いやいねえからこうなってんだよ落ち着け俺。目前の様子を伺っていると、堀は俯き拳を震わせている。殴られんの?マジかよ。そう思って身構えていると、その拳は緩く開かれた。そして何かを諦めたような表情で、口を開いた。
「…暑さで馬鹿んなった、悪りぃ。忘れて」
おい、お前のそんな顔、見たことねえぞ俺。それだけ言って堀はこの溜まり場から出て行った。俺はもうどうすることもできず、力なくソファに凭れ掛かった。
「堀のあんな顔、初めて見た」
と、静かに独り言ちる。とりあえず落ち着かせるため机に置いてあった煙草を手に取り火を点けるが、上手く火すら点けられやしねえ、震える手を握り締める。ビビってんのか、俺。
その時溜まり場のドアが開いた。このタイミングで澪かよ遅すぎんだろお前。
「いちくんじゃん。何その怖い顔、何かあったん?」
と、まぁ何も知らない顔で言うものだからイライラが増す。その手に握られているのはコンビニのビニール袋。来るのが遅かったわけだ。外あちーとぶつくさ言いながら俺の隣に座る。はい、と手渡されたのは袋に入ったアイス。苛立ちを抑えて封を開く。この暑さにこのアイスは至福だ。
「そーいえばさっき堀君走ってんの見かけたわ」
「…しらね」
カップアイスをスプーンで掬いながらそう言う澪に咄嗟に嘘をついていた。澪はふーんと言うだけ。その意図は、読めない。
「うわ…堀君にもアイス買ってやったのに渡し損ねた…最悪…」
「食っちまえば」
「そーしよ、堀君もう帰ってこなさそうだし」
そう言って二個目のアイスを食べ始める澪。食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に投げ入れる。ジジ、と死にそうな蝉の音が聞こえた。
「…そういえば堀君の顔真っ赤だったんだよな」
独りごとなのか俺への返答を待っているのか。唐突にそう言う澪の顔が読めない。割と人の顔色読むのは得意な方なんだけどな。まぁなんとなく察する。
俺は無言で煙草を手に取る。すると差し出されるライター。思わず澪の方に視線をやる。いつもの笑顔だ。
「さっき手、震えてたじゃん」
ね、とライターを点火する澪。やっぱこいつ見てたんじゃねぇか。まぁ有難く火は貰うけど。軽く吸い込み煙を吐き出す。勘付いてはいたが、覗きとは良い趣味してんじゃねえか。
「そういうとこあるよな~お前」
そう冷静にかえす。俺にカマをかけるとは。
夕日が差し込む溜まり場。西日がいい加減眩しい。吐き出された紫煙は窓の外へ揺らいでいった。
忘れて、か。無茶言うよなあいつ。二本目の煙草を取り出す。真っ赤だったって?堀の赤面も拝みたかったな、なんて思ってみる。
つーかこれからどうすんだよ会うの気まずすぎんだろ、そこら辺のアフターケア考えてんのか?いや行き当たりばったりの突発的行動なんだろうなあ、あいつ馬鹿だし…
隣で頭を抱えてる俺の肩を澪がポンとたたいた。もしかして何かいい案が…?
「検討を祈る」
そう言っていい笑顔でグーサインをしてくるので取り敢えず殴りたくなった。お前はそういう奴だよなぁ頼れる奴誰もいねえのかよ。俯いて絶望としていると、あ、でもいちくんさ、と澪も煙草に火を点ける。
「何だよ、」
「キスは嫌じゃなかった、とか?」
ふぅ、と吐き出す煙が俺の紫煙と混じる。いやマジで…確信犯だろ、こいつ。
もう何度目かのよくわからない溜息と共に煙を吐き出す。ほんっとに面倒臭いことになっちまったなもう…面倒なことは嫌いなんだよ。
「さぁな」
嫌じゃなかった自分がいるのが大問題なんだよな…ま、誰にも言わねえけど。

 

三馬鹿 出会い編

  1. 出会い編

四月、桜舞う校門をくぐる。目の前には俺、こと佐伯澪が今日から通う高校が青空を背にして新入生を歓迎していた。そう、今日は人生に一度の高校の入学式だ。
ちらほら見える生徒とその親に一瞥もくれず、俺は煙草の入ったポケットに両手を突っ込み入学式の受付を行っている昇降口とは別の道を辿っていた。
入学式なんてやる意味も感じられないし、座っているだけの式に俺一人いなくても何の問題もないだろう。…ヤニ切れも起こすし。等と言い訳をしつつ、入学式をバックレようと煙草が吸えそうな場所を探す。
手頃な場所を見つけ、石段の上に腰掛け煙草を取り出し一服。
「入学式からこんなんで友達できんのか俺…」
散りゆく桜をぼーっと眺めながら独り言ちる。コミュ障もコミュ障な俺は入学式というものがそもそも苦手だった。さっきの言い訳なんて建前で、面倒臭いとか以前に不安で仕方なかったのだ。憂鬱な溜息と一緒に煙を吐き出す。
そろそろ一本目を吸い終る頃だった。俺が歩いてきた方向から足音が聞こえる。もしかしたら見回りの先生がやってきたのかもしれない、もしかしたら在校生かも。焦った俺は煙草の火を素早く消し隠れようとするが遅かった。俯いていても気配でわかった。目の前に、いる。
恐る恐る顔を上げると、同じ制服を着て、まだ火を点けていない煙草を銜え俺を覗き込む金髪の男が立っていた。
「俺、堀奏多!一年?だよな。お前もサボりかー?入学式とかめんどいよな~」
と唐突に自己紹介を始めるので同じ新入生だということを知る。よかった、おれと同じサボりだ。ていうか入学式に金パって正気かよ…そもそもこの人、俺の最も苦手なタイプのパリピヤンキーじゃん超怖い。
でも死ぬほど笑顔が眩しいな…後光さしてない…?本当に人間かよこいつ、俺と人種が違いすぎる。
初対面なのにあまりの馴れ馴れしさで思わず面食らう俺を無視して堀君は俺の隣に座った。未だに会話らしい会話ができていないのは俺のコミュ障レベルがマックスだからだ。しんどい。
堀君は銜えてた煙草に慣れた手つきで火を点ける。あ、俺と同じ銘柄じゃん…と思いながらこれが会話の糸口に…いやまず俺も自己紹介を…と考えるが言葉が出ない。マジで泣ける。
しかも隣は急に黙りだすし俺のライフは一瞬で0になった。負けるな俺、頑張れ俺。
「…佐伯、澪」
こんなにも簡潔な自己紹介なんてあるか?と自分で突っ込んでしまうほど、取り敢えずの名前しか出せなかったが、笑顔でよろしくな!と言う堀君はたぶん滅茶苦茶良い奴なのだろう。
俺ら同じ銘柄じゃ~んと堀君から話を振られてしまった。そんな感じで他愛もない話を暫くしながら入学式が終わるのを待っていると、また同じ方向から足音が聞こえる。
今度こそ見回りがくるかしれないと早くに察した堀君が、俺の腕を引っ張り二人で物陰に隠れる。いや煙草の火!!!あっぶな!!!
「匂いでバレるだろ…」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
何を根拠に言っているのか、首を捻る。だが堀君の自信たっぷりの言葉に少し安心し、ごくりと生唾を飲み込む。
そしてやはりその心配は杞憂に終わった。足音の正体は俺たちと同じ制服に身を包む男…しかもイケメン。めちゃくちゃイケメン。たぶんこいつも新入生なのだろう。しかも同じく煙草を吸ってる。ここにはヘビスモしかおらんのか。堀君は目を輝かせて今にも飛び出しそうだった。
俺たちが座っていた石段に座り遠くを見つめながら、煙草の紫煙を吐き出すその横顔に思わず見惚れる。その男がコンクリートの地面に煙草を押し付け火を消した、その瞬間だった。隣にいたはずの堀君はいつの間にかいなくなっていて、イケメン君に姿を現していたのだ。
「お前一年?俺も一年~ここで何してんの~」
いや元気かよ…もう本当に呆れることしかできない。警戒心とかこいつ、子宮の中に置いてきたのか?俺は黙って二人の様子を眺めることしかできない。
面倒なのは勘弁とどう考えても顔に書いてあるのによく話しかけれるなと尊敬の念すら覚える。俺には絶対無理。
陰に隠れてひたすら待っていると堀君が急に振り返り俺とばっちり目を合わせてきた。嫌な予感しかしない。ちょっと待ってくれこの状況で出られるほど俺のコミュ力カンストしていないんだ、そもそも人から逃げてここに来たのに気づいたら三人もいるけど…?
「澪君お前もこいよ!」
「…あ、もう一人の黒髪…」
いやバレてるし!死んだ!手招きする堀君に俺は渋々と顔を出す。もうこうなったら友達になってやんよ!と急に俺のイキり精神が顔を出す。それにしてもパリピ、怖すぎるな…
「ほら~言った通りだろ?こいつ悪い奴じゃないって!」
「あ~うん、堀君が一方的に話しかけているだけなのは見て分かった…」
「んなことねぇって!」
堀君の悪くない奴の基準がいまいちわからないが、ここで入学式サボって煙草を吸ってる時点で大分悪ガキなのは否めないぞ…俺も然りだけど。
まともな奴は誰としてここにはいないことはわかった。ていうかまともな奴はそもそもこんな所にいない。
「まじで堀君のコミュ力舐めてたわ」
「いや~そんな褒めるなって。照れる」
「褒めてねぇ…」
「なーに怒ってんだよ~ヤニ切れ?さっき吸ってたのに?早すぎ~」
会話が猛烈なスピードで進んでいく…これがパリピか…俺たちの掛け合いを煙草を吸いながら眺めているイケメン君が、ここから逃れるためか腰を上げようとしている。気持ちはわかる。こっそりと立ち去ろうとするのを堀君が見逃すはずもなく、それを止めた。
それだけでなくそのままイケメン君の隣に座りだすので俺も取り敢えず腰掛ける。何してんのこれ。
「なぁ、名前なんてーの。それくらいいいだろ~」
「……」
黙ってる…ここで俺だったらくじけてる…スルースキル半端ねえな…
堀君は相も変わらずめげずに制服を引っ張るので、いつキレるかもわからないその様子を見守ることしかできない。まじかよ怒らせたら絶対怖いやつじゃんどうなんのこれ…
その心配をよそに堀君は諦めない。青筋立ってんだけど!?気づかない!?
しかしイケメン君は限界を感じたのか、躱すのも面倒臭くなったのか、観念したかのように両腕をあげた。降参したようだ。懸命な判断だと思う。
長く大きな溜息を吐いて諦めたような顔で渋々口を開く。
「俺は一宮あおい、まぁよろしくしてあげる」
「ひゅ~~すっげえ上から目線!最高!」
「褒めてんのそれ…まぁいいや、いちくんとでも呼んで~」
そう言ってヒラヒラと手を振るイケメン…もとい、いちくんは、また煙草に火を点け始めた。
ほら澪君も!と言われるので俺も簡潔に名前を言う。なんだかんだ三人揃って自己紹介まで終わってしまった。友達が…できた、のか?
その後堀君も煙草を取り出すので俺も煙草を銜え、三人揃って吸い始める。
体育館から流れる校歌を聴きながらまったりと過ごす。心地いいかもしれない、な。この感じ。まだ会って数分しか経ってないけど。
「LINE交換しようぜ」
安定の堀君がそう言うものだから言われるがまま携帯を取り出し、連絡先を交換する。そうして俺は始めてできた友達のラインをゲットしたのだった。なんだかんだ愉快で飽きなさそうな奴らだな、全員喫煙者なのも都合がいいし。
もはや運命すら感じるな。入学式をサボって煙草を吸いに来た三人が一同に会するなんて。と、らしくないことを考えて思わず笑みが零れる。
「な~に笑ってんの澪君」
「…うるさい」
「あんだよ~俺らもう友達だろ~」
「はは、ヤニ臭ぇ奴らしかいねえけどな」
楽しそうに笑う二人を見て、友達、友達かぁと感慨に浸ってしまう。
不安と期待を胸に…いやまぁ俺の野生の勘的に不安しかないのだが。この二人とは長い付き合いになりそうだ。空を見上げて何本目かもわからない煙を吐き出すのだった。

 

 

設定
佐伯澪 さえきれい 「澪くん」

9月26日(天秤座)O型 174㎝ 高校二年生

得意教科/日本史 苦手教科/英語
髪色/黒髪・暗めのアッシュ系 制服/ネイビーのカーディガン
ピアスは左に一個開いていたが気づいたら塞がっていた。煙草はメビウス。酒は苦手。
一人暮らし(家は宿泊などの溜まり場になっている) 妹が一人いる(ロリコン
料理はそこそこできる。やる気があれば掃除も。なければゴミ。
寒いのも暑いのも嫌い。痛いのも嫌い。ぶつくさ言いながらやる時はやる。
三馬鹿の中で割と常識人で真面目。よくキレる。ドがつくコミュ障。
ツッコミにキレがあるが、ツッコミに疲れると寝る。
特技はどこでも寝れるところ。綺麗好きだが大雑把。
根っからの引きこもり体質だが他二人のせいで脱ヒッキーに。
バイトは近所の飯屋のキッチン。ホールには意地でもでない(接客苦手)
寝起きが死ぬほど悪い。唐突に溜まり場(部室)の掃除をし始める。断捨離が楽しい。
アニメとか洋画、漫画などが好きだがゲームはしない。ゲーム機は他二人が持ってくる。
時々邦ロックのライブやフェスで豹変する。隠れオタク
呼び方
一人称・俺 二人称・お前、あんた 三人称・お前ら 
堀・堀君 一宮・いちくん

 

一宮あおい いちみやあおい 「いちくん」
12月14日(射手座)AB型 176㎝ 高校二年生
得意教科/現国 苦手教科/他全部
髪色/金髪・アッシュ系 制服/キャメル色のカーディガン(萌え袖)
ピアスバチバチ。計七個開けている。へそピを開けたい。煙草は赤マル。
酒を弱くないけどそんなに飲まない。
実家暮らし。姉(パリピ)がいる(仲良し)
ミラールックも余裕でできる。姉の買い物に付き合うこともしばしば(荷物持ち)
面倒臭がりだけど掃除は好き。料理は壊滅的。
女の子に媚びるのが得意。死ぬほどあざとい。許せるイケメン。
何でも卒なくこなす要領がいい。よく逆ナンされているのを見かける
年上のセフレがいるとかいないとか。否定も肯定もしない。たぶんいる。
バイトは駅チカのイタリアン。ホールもキッチンもやるけどキッチンの方がサボれるから好き。でも女ウケがいいから表に出てほしい(店長談)
低燃費。横顔が美しいけど他二人といると表情が崩れまくるのでレア。
その写真は高値で売れる。わりと自分の顔がいいことを自覚してる。
呼び方
一人称・俺 二人称・お前、こいつ 三人称・お前ら
堀・堀 佐伯・澪

 

堀奏多 ほりかなた 「堀くん」
1月16日(山羊座)A型 178㎝ 高校二年生
得意教科/英語以外の文系科目 苦手教科/理系全般
髪色/安定しない、コロコロ変わる 制服/パーカーか適当なカーディガン
ピアスは計五個。煙草はメビウス(安いので)
実家暮らし。弟がいる(仲良し)自分と似ていない弟が面白くて好き(わりとブラコン)
コミュ力おばけの愛すべき馬鹿。何かと言い出しっぺになりがち。うるさい。
人のペースを崩すのが得意でその餌食にずぶずぶとハマっていった他二人。
愛想は良いし世の中上手く渡れるタイプ。可愛がられやすい。
バイトは近所のパチ屋。よく客に貢がれてる。自覚済みのクズ。
よく黙ってりゃイケメン。それな。と言われがち。でも黙ったら死ぬ。
行動力が半端ないのに唐突に面倒臭さが爆発する。何もしなくなる。
配られたプリントをよく無くし他二人から貸してもらったものも紛失させる。
妙に喧嘩が強い。喧嘩なら拳で卍 たぶん風邪とかそんな引かない。馬鹿だから。
ヤンキーだと思われるパリピ。でも良い奴だし普通に優しい。
誰からも好かれるタイプ。でも他二人と遊んでるのが一番楽しい。
呼び方
一人称・俺 二人称・お前、あんた 三人称。お前ら
佐伯・澪くん 一宮・いち

 

 

部室兼溜まり場

堀が人脈を使い他2人の為に同好会という名目でゲットした部室を占領している。

古びたソファは前使っていた誰かの物らしい。とりあえず破れてるわ汚いわで布を被せてある。

物がどんどん増えてくので定期的に澪かいちが片付けるがすぐに汚れる。

何故か冷蔵庫や電気ケトルが置いてある。

基本的にサボりたい授業がある時、昼休み、イベント、放課後などに使われている。

場所は四階の角部屋。

滅茶苦茶ヤニ臭いので定期的な換気が必要。

お菓子やらジュースが常備してあり何故かボードゲームなども置かれてある。

西日がよくあたり眩しいのでカーテンが欲しいところ。

 

備え付けのエアコンはよく壊れる。

堀「こたつほしくね?!!!」

いち「折半すっか〜」

澪「フツーにエアコン直そうや」

 

禁止事項は特にないが、女を連れ込むのはNG。

澪「いちくんわかった?」

いち「こんなきったねーとこでヤりたかねぇよ」

ほり「ごもっとも」

 

鍵は2つ。堀が失くすのを案じていちと澪で保管している。

いち「とりあえずお前は持つなよ」

堀「だいじょ〜ぶだって!信じろって!」

澪「盛大なフラグが立ってる」

 

いつでも唐突に堀くんにグループラインで全員集合!と呼び出されることもしばしば。

ほり(全員集合ー!!)

いち(授業中なんだけど、、、)

澪(寝てるので既読がつかない)

 

 

追加人物
佐藤秀 さとうひで 「佐藤くん」

堀と澪の好奇心キス現場を目撃してしまい哀れにもそれをいちに見つかられてしまうモブである。

堀、澪、いちと同じクラスの真面目くん。

風紀委員長で先生にも頼られている(雑用を押し付けられt)

噂に踊らされるタイプ。頭はわりといい方だけど要領は悪い。

何故か三馬鹿には敬語を使ってしまう。正義感が強いが推しには弱い。

クラスでは山田と田中と連んでいる。インキャ。不良は相容れない存在だと思っている。ごもっとも。

今まで三馬鹿のようなタイプに出会ったことはなかったので興味深くはある。

小中と皆勤賞でサボった事もないが三馬鹿の所為でそれも破られてしまう事がしばしば。

目撃した担任の先生に心配される事も。

先生「佐藤、あの三馬鹿に虐められてないか?」

佐藤「いや…あの人たちは…悪い人たちではないんです…不可解なだけで……」

先生「そ、そうか……」